哀と同じくらい孤独

地図と領土 (単行本)

地図と領土 (単行本)

『地図と領土』ミシェル・ウエルベック著を読む。
ウエルベックというと枕詞に「過激」だの「過剰」だのがついてくる。
そこが好きで、読んできたんだけど、この作品は違った。
村上春樹か、松家仁之か。
アヴァンギャルドが売りのジャズミュージシャンが、
意外にも原点に立ち返って
4ビートや8ビートジャズをじっくりと聴かせるって感じ。

肖像画からビデオアートまで手がけるアーチストが主人公。
建築家の父親との晩年のつきあい。
肉体は老いたが、精神や知性は老いていない。そのことへの苛立ち。
ビジネスとしては成功を納めたが、妻の自殺や
本当に自分のつくりたいものを設計してきたのか、自責の念に囚われる。
父親は 
「住宅は住むための機械である(machines à habiter)」という
ル・コルビュジエよりも、ウィリアム・モリスやジョン・ラスキンを踏襲した
アーツ&クラフツ的というか、アルチザン(職人)、マイスター的な建物を
創りたかったそうな。
でも、それじゃ経済面での成功は掴めなかっただろう。

それともう一つ。肖像画を描いた作家、ミシェル・ウエルベックとの
私生活でのつきあい。
2つの関係が、小説の骨格となっている。
これらが交錯して、話は展開する。
アーチストは、腕利きの画商と組んで肖像画など作品が破格の値段で売れる。
やがて生家の近辺の広大な森を買い求め、隠遁生活を送る。
そう、サリンジャーの晩年のように、だ。
ミシェル・ウエルベックが事件に巻き込まれるが、それは読んでのお楽しみ。

エロスよりもタナトスが漂う静謐な世界。
アーティスティックでお洒落、物悲しいオトナの小説。

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