反ラノベ

ピース・オブ・ケーキとトゥワイス・トールド・テールズ

ピース・オブ・ケーキとトゥワイス・トールド・テールズ

『ピース・オブ・ケーキとトゥワイス・トールド・テールズ』金井美恵子著のレビュー。


読み終えてから、はじめて作者の処女作『愛の生活』を
文庫本で読んだときの感慨を思い出した。
改めてネットで作者のプロフィールを読んでみたら、
19歳のときに『愛の生活』でデビューだそうだ。
じゃあ、書いていたのは18歳くらいの頃か。
共感とか女子高生の等身大とか、そんなんじゃなくて。
日本語によるヌーヴォーロマン。退屈じゃないヌーヴォーロマン。
恐るべき文学少女だ。


この小説も、いつものように、ページをめくると、
改行がほとんどなく、しかもフレーズが長い。
アナウンサーが朗読したら、窒息しそうなほどに。
漢字、しかも難しい漢字が多く、件の小説のスタイルに馴染んだ読み手には
極めてとっつきにくいかもしれない。
どうする。簡単なこと。ゆっくりと読めばいい。幸い、短篇連作だから、ちょうどいい。
ゆっくり味わうように読めば、次第にこの世界に浸ることができる。


この本の断片が触媒となって過去のことが甦ったり、新たなことを想起させてくれる。


主人公の母親の洋裁室。生地やミシン、裁縫道具などの細やかな描写は、
中学時代ぼくが夏期講習や冬季講習に通っていた塾を思い出す。
そこは、ふだんは小さな町の洋裁学校、ドレメだった。
すると、目抜き通りの映画館の入口にあったパン屋の同級生の女の子から
文藝同人誌の誘いを受けたことが、
記憶の底から浮上した。恥ずかしくて断ったけど。


絶版になっていた、ロブ・グリエの『消しゴム』を
神田神保町の古書店で見つけた。
二階のガラス戸の書棚に鎮座ましていたが、
ビンボー学生には、手が出にくい値段だった。
同じクラスの江古田君(仮名)が、
秋吉久美子ナタリー・サロートのファンだと教えてくれたことも…。
ビュト−ルの『時間割』やソレルスの『ドラマ』にはシビれた。


久々に日本語の持つ豊穣さ、小説の醍醐味を愉しんだ。
ひょっとして新たな境地へと作者は入ったのかもしれない。
あ、これ上から目線ではありません。


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