自己変革するDNA

自己変革するDNA

自己変革するDNA

『自己変革するDNA』太田邦史著を読む。

「DNAは環境に応じて自らを書き換え、変化する」

と述べている。

「有性生殖を行う生物では、生殖細胞において自己変革能を
フルに発揮させ、子孫の遺伝的な多様性獲得に利用している。
高等動物では、免疫系などの一部の分化した細胞でDNAを再編成して
多様な抗体をつくり、無数の病原体の侵入に対抗している」

「自己変革能が暴走して抑えが利かなくなり、さらなるゲノムDNAの再編成が
連鎖反応的に生じて、最後は個体の死に至る」

これが、がんだと。

「自己変革能」のキータームは「エピゲノム修飾」。

「ヒストン修飾というエピゲノム修飾が
子孫をつくるときの遺伝子再編成パターンに影響を及ぼす、
ということである。

  • 略-エピゲノム修飾は環境条件によって施されるので、

「環境の影響が子孫のDNAの遺伝変化に影響をもたらす」とい
うことが分子レベルで明らかにされたことになるからである」

「もう少し大胆に言えば、ラマルク説のように「獲得形質が何らかの形で
DNAの遺伝に影響しうる」ことになろう。-略-「親の因果が子に報い」は、
DNAの上でも起こることになる」

要するに「獲得形質は遺伝する」のが立証されたということか。
「氏より育ち」ともいうが、「カエルの子はカエル」ともいう。
「三つ子の魂百まで」というのもあるが、三歳児で人の能力が決定されたら
たまったもんじゃない。「ハタチ過ぎたら、ただの人」というのもあるし。

「人ゲノム情報の解読により、遺伝子の数が線虫やハエとそれほど
変わらない二万数千個だけであることがわかり、
研究者たちは驚きをもってこの結果を受け入れた。

  • 略-遺伝子の数にほとんど差がないのであれば、限られた遺伝子の使い方に

ヒントがあるのだろう。おそらく、高等真核生物の複雑なボディプランや
高次機能は、既存の遺伝子をどのように運用し、使い回すかが
重要なのであろう」

より有効に運用・活用なんて書くと、あたかもファイナンスのようだが。
それには「組み換え」がシェアにいくと。

「突然変異で抗体遺伝子を多様化させた場合よりも、
組み換えをベースにした多様化を用いた方が、
任意の抗原の特異的に結合する抗体を獲得しやすいようである」

「喩えて言うなら、突然変異は金鉱脈を探す際に一か所でいきなり本掘削を
始めるようなものだ。組み換えは目標を含む広い範囲を試し掘りしてから
候補地を決める戦略になる」

ここも興味深い。

「生物が生き残るためには、大別して二つの戦略がある」

「一つは、人間のようにひたすら高度化/複雑化を目指す方向性である」

そしてもう一つがウイルス。

「ウイルスは細胞も持っていないし、場合によってはDNAすらない。-略-
つまるところ、自らを極限まで簡略化・リストラして、
生き残ろうとする戦略である。しかも。ウイルスは頻繁に変異によって
姿を変えるほか、やたら種類が多い。-略-実際、地球上のあらゆる生物は、
いずれかのウイルスの宿主になっている」

新薬と耐性ウイルスの終わりなき闘い。

レヴィナスの倫理観を踏まえて作者は最後にこのような考えを述べている。

「有性生殖では、基本的に父母のゲノムDNAの混ぜ合わせにより、
遺伝的に多様な子孫を産みだし、生命の継承を行っていく。
すなわち多様性・多元性は、生と死の移行過程に織り込まれるほど、
生命にとって根幹となるものである。
われわれの子らがわれわれと似ていながら異なるものとなって、
生命が継承されていく。
これが「関係しながらも他なるものでありつづける」
「他者でありながらも私であるような異邦人」ということである。」
われわれの子らはわれわれにとって「顔」であり、
この存在によりわれわれは無限につながることが可能となる。
「超越すなわち善さは多元性として生起する」。
レヴィナスは、子孫という「他者」のために
われわれが何を為すかを問いかけるのである」

内田樹レヴィナス解釈にもかつれシビれたが、
この解釈にもシビれた。
DNAとレヴィナスを結びつけるあたりは、やる〜!!
結構話の飛び方がいい感じ。センスがある。
次作が楽しみ。


「関係しながらも他なるものでありつづける」

この一文がまもなくやってくる母との離別が控えているであろう
ぼくには、身にしみる。


おまけ。

「世界中の実験室で用いられているマウスは、じつはY染色体
日本産のモロシヌス亜種というタイプのネズミのものである。-略-
近世以降このマウスが海を渡り、ヨーロッパ系のマウスと交配され、
現在の実験室用マウスになってである。日本の男系マウスはある意味、
頑張ったことになる」

雑誌『ケトル』編集長のTwitterのスタイルをマネるなら、
上記の引用の後に、
ミッキーマウス好きは覚えておかなくちゃ」と、結ぶ。


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