『1968【上】』その2

1968〈上〉若者たちの叛乱とその背景

1968〈上〉若者たちの叛乱とその背景


「一九五〇年代には、「学校の雰囲気は明るく、生徒たちは伸び伸びし、
教職員も生き生きしていた」」

「決定的な変化は、六〇年代に高度成長に必要な人材育成政策が
教育に導入されたことと、
進学率の急上昇と受験競争が出現したことから起きた」

「職業課程を切りすてた普通学校のほうは、大学受験の予備校と
化していったのである」
「こうした教育と学校の状況変化は、児童たちを確実に追いつめ
ていった。そして彼らは、大学入学後、その不満を全共闘運動というかたちで
爆発させることになるのである」

ベビーブーマーとして生まれた団塊の世代は、競争の世代で
ようやく受験戦争を勝ち抜いて大学に入学する。
ところが、マンモス授業で、教授は10年1日が如き退屈な授業。
こんなはずでは…。
挙句の果てに、入学金や授業料を設備充実のためなどという名目で値上げする。
作者が大学経営のいい加減さを取り上げている。
財テク失敗で赤字などいまも騒がれているが、昔からのようだ。
ツケは学生、いやその親に回る。
で、経済学部や経営学部があるというのも、なんだか皮肉というべきか。

「「戦後民主主義の申し子」たる彼らが、ベトナム戦争を契機に
戦後民主主義」を「欺瞞」とみなしだすと同時に、
戦後教育で教えられてきた「明るく、元気に、すこやかに」という原理の
延長で全共闘運動をおこした両義性がうかがえる」

近親憎悪とでもいうべきか。
へぇと思ったのが、ここ。

橋幸夫舟木一夫で育った世代が、いま自分を
根っからの「ビートルズ世代」と思い込んでいるのと、
それは似ている」
(亀和田武の「偽の60年代モードが主流だなんて」より引用の一部引用)

渋谷陽一の同趣旨の発言も引かれていたが、割愛。
実はビートルズは、デビューの頃はごく一部にしか受けていなかったそうだ。
小学校の担任が来日したビートルズのことを「男のクセに髪が長くて」とか言っていたな。

「「全共闘世代」は実態とかけはなれている。
まず六五年の大学進学率は一七.〇%、七〇年は二三.七%で、
この世代の約八割は大学に進学しておらず、全共闘運動とも無縁だった」

ビートルズ世代」と「全共闘世代」がほんとうはマイナーだったことは面白い。
なんだか追体験、もしくは妄想あるいは、オフィスや酒場で部下に
自分をよく見せたいがために、
自称、詐称しているのではなかろうか。
作者は、「全共闘世代」がマスコミで活躍しているから、
そういう印象が強いのではと述べている。

ぼくが会社員をしている頃、上司はこの世代だった。
ポスト団塊の世代に含まれるぼくは、ぼくたちは、
三無主義、オタクの走りゆえなんだかグチグチいわれた。
酒席での論破とか、説教とか、思い出すだにおぞましい。

「当時は学生活動家が「カッコイイ」存在であり、「女の子にもてた」こと、
こうしたノンポリ学生であってもマルクスを読みデモに参加するという
時代だったことは、一定の事実といえよう」

意外とそんなことだったのかもしれない。
全共闘運動とも無縁だった」非大学生とて、全共闘運動には
シンパシーを感じていただろう。
「女の子にもてたい」は、男子にとって永遠不滅のモチベーションかと思ったら、
最近は違うらしい。
二十歳の原点高野悦子著を友人から借りて読んだが、
清楚な顔立ちにモエてしまった。
『青春の墓標』奥浩平著を読んで、彼が中核派、ガールフレンドが革マル派
「ケルンパーはパーね」とかいう会話には、
よく理解できなかったが、カッコイイと思った。

「当時の学生運動では、東大や京大出身の活動家が
理論的リーダーとなり、法政・明治・中央などのマンモス私大の学生がゲ
バルト要員とされることも少なくなった」

はは、日本企業のヒエラルキーのまんまじゃん。
その時代は、終身雇用制&年功序列もがっちりあったわけで、
一流じゃない大学に入った者は、一流じゃない会社にしか
就職できず、一流じゃない人生を歩んでいくという未来図が厳然と示されていた。
ナーンセンッス!か。


日大全共闘議長秋田明大と東大全共闘議長山本義隆
二人のエピソードが特に興味を引かれた。
少しは知ってはいたが、通して読むと発見があった。
共に弁が立つタイプではなかったようだ。
どちらかといえば不器用でフェア。信望が厚い。
そのあたりが、大学闘争のリーダーに担ぎ出されたようだ。
闘争後、二人は学園闘争から身を引く。
将来の東大教授を嘱望されていた山本は、
予備校の講師となっていわば在野で素晴らしい物理学史関連の著作をものしている。


バリケードの中の自由な解放区。
「明るく、元気に、すこやか」な空間。しかし、束の間だった。
祭りのあと、あとの祭り。


1968年と2009年。大学生は変わっただろうか。
大学は、実は、本質のところは何も変わっていないような気がする。


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