男と女の間には

できそこないの男たち (光文社新書)

できそこないの男たち (光文社新書)

『できそこないの男たち』福岡伸一著の読書メモ。


「男性は、生命の基本仕様である女性を作りかえて出来上がったものである。
だから、ところどころに急場しのぎの、不細工な仕上がり具合になっているところがある」

「だから男は、寿命が短く、病気にかかりやすく、精神的にも弱い」

劣化コピーね。種の保存のために、はじめに女性(メス)ありき。
というのは、なんとなく知ってはいたが、
かくもきっちりと全編にわたって「分子生物学」的に述べられると、
一応、男であるぼくは、つい襟を正して読んでしまう。


たとえば生殖器官。

「基本仕様として備わっていたミュラー管とウォルフ管。男性はミュラー管を敢えて殺し、
ウォルフ管を促成して生殖器官とした。−略−かくして尿の通り道が、
精液の通り道を借用することになった。ついでに精子を子宮に送り込むための発射台が、
放尿のための棹にも使われるようになった」


前述の女性から男性に「作りかえる」ものが、「SRY遺伝子」で、
そのしもべが「主要な男性ホルモンであるテストステロン」。
「胎児はテストステロンのシャワーを浴びて初めて男になる」。


昔懐かしの保健体育の教科書で読んだ第二次性徴の男の特徴。
のどぼとけが出て、ヒゲなど体毛が濃くなる。これもテストステロンの成せるもの。
男らしさの素でありながら一方で「免疫系を傷つけ続けている可能性がある」。
ガンなど免疫力低下による諸病の引き金になるそうで、ダブルバインドかよ。


「遺伝子の使い走り」である男性がアッシーくんやメッシーくん、ミツグくんなど
喜んで「女性に尽くす」のは、「生殖行為」の際に伴う「快感」というご褒美のためなのだろう。
なんだかフロイトの二番煎じみたいだが。


なんだけど、最近では、精子だけ取り出してという人工授精も行われ、
このままでは、まるで長旅をして遡上してきたのに、精子をふりかける前に、
搾り取られて人工孵化させられてしまうオスのサケのようになってしまいかねないかも。


「女の時代」とかちょっと前に騒がれていたが、人類いや生物有史以来
女性上位、女性優位の時代だったんだ、作者の言説に従えば。


作者は本の終わりで魚は一生水の中にいるが、それを感じることなく生きているという
素敵なフレーズが出て来る。しかし、男はそうはいかない。
そう考えてしまうぼくは、たぶんダメなヤツなのだろう。
でも元々不具合だものと、開き直ったりして。
男性・女性を違った立場から見ることができ、
とりわけ男性なら自分のマッチョ度合いをはかるのに好適。
おもしろうてやがて哀しき一冊だ。