ガーリッシュ・ホラーよりもフェミニズム・ホラーと言った方が的確かも

わたしたちが火の中で失くしたもの 作者:マリアーナ・エンリケス 河出書房新社 Amazon 『わたしたちが火の中で失くしたもの』マリアーナ・エンリケス著 安藤哲行訳を読む。 訳者あとがきによると作者は作家になる前、ジャーナリストだったそうだ。事件や問題…

脱・家族の住宅

家族を容れるハコ 家族を超えるハコ 作者:上野 千鶴子 平凡社 Amazon 『家族を容れるハコ 家族を超えるハコ』上野千鶴子著を読む。 「住宅という『ハコ』と家族という『現実』がどうやらズレてきているらしい」。なのに、いまだに「nLDK」がデファクトス…

「わたしがドードー鳥なら、ケイナちゃんは孤独鳥(ソリテア)」

ドードー鳥と孤独鳥 作者:川端裕人 国書刊行会 Amazon 『ドードー鳥と孤独鳥』川端裕人著を読む。 ドードー鳥について著者は『ドードーをめぐる堂々めぐり』を書いた。これが、ノンフィクションなら、本作は、同じ素材で小説に仕立てたもの。同じ材料で肉じ…

疎開と疎外そしてそこからの脱出

東京少年 (新潮文庫) 作者:信彦, 小林 新潮社 Amazon 『東京少年』小林信彦著を読む。まるで山下達郎の楽曲のようなタイトル。 第二次世界大戦で日本が敗色濃厚となった頃、東京・両国から、埼玉の山奥へ集団疎開することになった少年と弟。ふだんの小学校で…

かくも気高く、切ないプラトニック・ラブ

無垢の時代 (岩波文庫 赤345-1) 作者:イーディス・ウォートン 岩波書店 Amazon 『無垢の時代』イーディス・ウォートン著 河島弘美訳を読む。 舞台は、1870年代、華やかりし、ニューヨークの上流社会。家の格、出自、現在の羽振りの良さなどでマウントの…

怖れと慄(おののき)き―うらぶれて、うらめしや

廃屋の幽霊<新装版> (双葉文庫) 作者:福澤徹三 双葉社 Amazon 『廃屋の幽霊』福澤徹三著を読む。 ホラー小説というと、おぞましいものを、ついイメージしがちだが、それはホラーの部分であって、やはり、小説の部分がしっかりブンガクしていないと、物足りな…

地図にも載っていない小さな国の、知らない話

異国伝 作者:佐藤 哲也 河出書房新社 Amazon 『異国伝』佐藤哲也著を読む。 「あ」の「愛情の代価」から「ん」の「ンダギの民」まで、誰も知らない国の短い物語が、書き記されている。五十音ごとのタイトルが決まってから、書き出したのだろうか。それとも、…

脱「無料貸本屋」―道具としての図書館

未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告― (岩波新書) 作者:菅谷 明子 岩波書店 Amazon 『未来をつくる図書館 ニューヨークからの報告』 菅谷明子著を読む。 行きつけの図書館はありますか。あると答えた方へ。図書館は何をするところだと思いますか。読…

メディアの特性を理解せずに、現代を真に理解することはできない

メディア・リテラシー―世界の現場から (岩波新書) 作者:菅谷 明子 岩波書店 Amazon 『メディア・リテラシー ―世界の現場から―』菅谷明子著を読む。 いま、日本の教育に欠けているものは、何だろう。その大きなものの一つが、メディア・リテラシーである。 メ…

カメ人間、キリン人間、クジラ人間…ビジュアルはショッキングだが、読むと知らないことばかり

カメの甲羅はあばら骨 ~人体で表す動物図鑑~ (SBビジュアル新書) 作者:川崎 悟司 SBクリエイティブ Amazon 『カメの甲羅はあばら骨-人体で表す動物図鑑-』川崎悟司著を読む。 『恐怖の正体-トラウマ・恐怖症からホラーまで-』春日武彦著で取り上げられ…

「ひとりの人間を一冊の書物のように読もうとするこころみ」

ヴァージニア (新潮文庫) 作者:倉橋 由美子 新潮社 Amazon 『ヴァージニア』倉橋由美子を読む。 読み直し、倉橋由美子の二冊目。 新潮文庫の倉橋作品は背表紙が緑色。当時のガールフレンドの本棚にあったし、妻の本棚にも、あった。ジャズ喫茶で煙草をくゆら…

詩爆弾は、大脳皮質で炸裂する

左川ちか詩集 (岩波文庫 緑232-1) 岩波書店 Amazon 『左川ちか詩集』 左川ちか著 川崎賢子編を読む。 中学の時、現代国語の教科書に西脇順三郎の詩が載っていた。そのモダンさ、日本語の豊饒さに眼をひらかされた。新潮文庫から出ていた西脇の詩集を買って、…

恐怖を精神分析すると

恐怖の正体-トラウマ・恐怖症からホラーまで (中公新書 2772) 作者:春日 武彦 中央公論新社 Amazon 『恐怖の正体-トラウマ・恐怖症からホラーまで-』春日武彦著を読む。 まずは、恐怖の定義。 「恐怖の定義 ①危機感、②不条理感、③精神的視野狭窄―これら三…

なんてこった!このご時世に、ど真ん中の恋愛小説を読もうとは!

最愛の (集英社文芸単行本) 作者:上田岳弘 集英社 Amazon 『最愛の』上田岳弘著を読む。 コロナ禍なんて随分昔のことのように思えるが、まだ、つい、数年前のことだ。三密を避けるため、企業は社員を在宅勤務、リモートワークさせ、会議はWEB会議になった。…

デビュー作。その出来に圧倒される

パルタイ (新潮文庫) 作者:由美子, 倉橋 新潮社 Amazon 『パルタイ』倉橋由美子著を読み直す。 大学生の時、好きな作家は、女性では、金井美恵子と森茉莉、そして倉橋由美子だった。この作品集、読んでいたはずなのに、まったく読めていなかった。でも、それ…

たった6人を辿れば、世界中の人と知り合いだ

複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線 作者:マーク・ブキャナン 草思社 Amazon 『複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線 』マーク・ブキャナン著を読む。 数字的にはたった6人を辿れば、世界中の人と知り合いだという狭い世界、「ス…

友がき 海がき 川がき

今ここにいるぼくらは (集英社文庫) 作者:川端 裕人 集英社 Amazon 『今ここにいるぼくらは』川端裕人著を読む。 大昔の著者のブログで彼自身は現在SF作家ではないが、SFの土壌から作品が生まれていると書いていた。 この作品は「博士」と呼ばれる小学生と友…

正しくは、『ブローティガン東京日詩 1976.5~6』ではなかろうか

ブローティガン 東京日記 (平凡社ライブラリー) 作者:ブローティガン,リチャード 平凡社 Amazon 『ブローティガン東京日記』リチャード・ブローティガン著 福間健二訳を読む。 ブローティガンが日本にいたのは「1976年5~6月、1ケ月半」だそうだ。旅にして…

続・Linuxとハッカー―「OSを作るというのは、世界を作ることだ」

それがぼくには楽しかったから 全世界を巻き込んだリナックス革命の真実 (小プロ・ブックス) 作者:リーナス トーバルズ,デビッド ダイヤモンド 小学館プロダクション Amazon 『それがぼくには楽しかったから 全世界を巻き込んだリナックス革命の真実』リーナ…

Linuxとハッカー―伽藍方式でいくか、バザール方式でいくか

伽藍とバザール―オープンソース・ソフトLinuxマニフェスト 作者:エリック・スティーブン レイモンド 光芒社 Amazon 『伽藍とバザール―オープンソース・ソフトLinuxマニフェスト』エリック・スティーブンレイモンド著を読む。 たとえば新しいラーメンを考案す…

時代を間違えて生まれて来た―公(きみ)の名は後鳥羽院

菊帝悲歌: 小説後鳥羽院 (河出文庫) 作者:塚本 邦雄 河出書房新社 Amazon 『菊帝悲歌 小説後鳥羽院』塚本邦雄著を読む。 NHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を見ていたので、歴史的な流れは、それなりに知っていた。ドラマの終盤に後鳥羽院、後鳥羽上皇は登場…

ラブ・ウォーズならぬライブ・ウォーズ

現代思想2004年11月号 特集=生存の争い 医療・科学・社会 青土社 Amazon 『現代思想2004年11月号 特集=生存の争い 医療・科学・社会 』を読む。 目玉は、立岩真也と小泉義之の「生存の争い」という討議。ユーミンのアルバムで『ラブ・ウォーズ』があったが、…

ああ愉快、痛快、奇々怪々の怪奇掌編

大人のための怪奇掌篇 (宝島社文庫) 作者:倉橋由美子 宝島社 Amazon キャッチコピーはアニメ『怪物くん』(第1作)主題歌「おれは怪物くんだ」の歌詞の一部を拝借。作詞は藤子不二雄。AとFがつく以前。 『大人のための怪奇掌篇』倉橋由美子著を読む。 奥付の…

酔いどれ天使の詩―最後のビートニク

ここに素敵なものがある 作者:リチャード・ブローティガン 百万年書房 Amazon 『ここに素敵なものがある』リチャード・ブローティガン著 中上哲夫訳を読む。 第一詩集『リチャード・ブローティガン詩集-突然訪れた天使の日-』リチャード・ブローティガン著…

ペソア入門書、ペソアガイドブック、ペソアファンブック、ペソア布教本…

フェルナンド・ペソア伝 異名者たちの迷路 作者:澤田 直 集英社 Amazon 『フェルナンド・ペソア伝-異名者たちの迷路-』澤田直著を読む。 ペソアの人生と「70もの人格」により書かれた作品を辿り、その魅力やペソア愛が伝わってくる。異なるペンネームで…

『シン・ウルトラQ』がつくられるなら、原作にしたい4つの短篇集

わたしたちの怪獣 (創元日本SF叢書) 作者:久永 実木彦 東京創元社 Amazon 『わたしたちの怪獣』久永実木彦著を読む。SFとかファンタジーとか、なんだろうが、なぜか、懐かしさも感じる。NHKBSで4Kリマスター版『ウルトラQ』や『ウルトラ7』を見ていたが、…

幸なのか、不幸なのか、ともかく、ブローティガンの最後の作品

不運な女 作者:リチャード・ブローティガン 新潮社 Amazon 『不運な女』リチャード・ブローティガン著 藤本和子訳を読む。 「遺品の中から彼の娘が発見した」ノートに綴られたもの。ミュージシャンなら未発表音源デモテープのようなものか。相変わらず好きな…

デジタル音楽全盛、なぜか、でもレコードが人気

音楽未来形―デジタル時代の音楽文化のゆくえ 作者:聡, 増田,文和, 谷口 洋泉社 Amazon 『音楽未来形 デジタル時代の音楽文化のゆくえ』増田聡・谷口文和を読む。 とりあえず気に入ったところ。 「哲学者のヴィレム・フルッサーは「写真の哲学のために」の中…

推し、百合、ケア―「「推し」がいれば何でもできる」

ニジンスキーは銀橋で踊らない 作者:かげはら 史帆 河出書房新社 Amazon 『ニジンスキーは銀橋で踊らない』かげはら史帆著を読む。 天才バレエ・ダンサー、ニジンスキーの妻・ロモラの、まさに波乱万丈(陳腐な言い回しだけど)の半生記。 これまで音楽家のノ…

風刺やブラックユーモアがピリリと利いた老人のための童話集

老人のための残酷童話 (講談社文庫) 作者:倉橋由美子 講談社 Amazon 『老人のための残酷童話』 倉橋由美子著を読む。 いやあ実に久しぶりで。で、この本、風刺やブラックユーモアが利いていて、あっという間に読んでしまった。これから著者の作品をゆるゆる…