失われた声、奪われた言葉

 

 

『声の物語』クリスティーナ・ダルチャー著 市田泉訳を読んだ。
 
近未来のアメリカ。
突如、「女性の手首にワードカウンターがつけられた」
「一日100語以上」話すと「強い電流が流れる」。
女性は自由に生きるあらゆる権利を剥奪される。
 
主人公は「元認知言語学者」の女性。
夫と長男、双子の次男、長女と暮らしている。
女児には教育を受けさせないような男性優位の政策。
特に長男は男尊女卑の思想を刷り込まれ、
母親にぞんざいな態度を取る。
 
ディストピアSF」とカテゴライズされている。
「ワードカウンター」を外すにはどうすればいいのか。
女性たちを解放しようと立ち上がり、
国家権力と闘うストーリーを予想したら、ちと違った。
彼女はキャリアを見込まれ重要なミッションを受けることになる。

トップシークレット。
国家体制と反体制勢力。
サスペンスとアクションとお色気少々。
アメリカのTVドラマのような味わい。
彼女は妊娠している。父親は夫ではない。
 
ディストピアSF」には違いないが、エンタメ系「ディストピアSF」って感じ。
フェミニストSF」とは呼べないと思う。
たとえば、ろくに読み書きのできない女性たちがやがて母親になったら。
そのあたりが弱い気がする。
 
目まぐるしく話は展開して結局ハッピーエンド。
この帰結もありだけど、そうでないのもあるかなと。

映画館や美術館でいっこうにお喋りをやめない女性たちには、
「ワードカウンター」をつけさせたいとも思うけど。
「一日100語」が上限だから、すぐにビリビリと電流が流れだす。
なんだかTVのバラエティ番組の罰ゲームみたいだ。

カエル、天にかえる

夜、道端になにやら物体が。
目を凝らしてみると、ヒキガエルの死骸だった。
これがほんとの轢きガエル。
ひかれたてらしい。踏まなくてよかった。
K-1ボブ・サップにKOされた曙のポーズが浮かぶ。
 
翌朝、再確認する。
さらにひかれたらしく、小さくなっていた。
どこで生まれたのだろう。

敷地内にアパート経営している地主の豪勢な家。
庭も広そうなのでたぶん池があって
その池で生まれたのだろうか。
 
今日、なくなっていた。
ゴミの日だから、隣のマンションの管理人が
片づけたのだろうか。
 
最寄り駅は急行が停まらないので
なんとか各停に乗ろうとする女性が走る姿を目にする。
踏まなかったろうか。

見たくない、知りたくないニュースばかり。
トイレットぺ―パーなどはなんとか買えるが、
マスクは買えない。
朝から並ぶほど暇じゃないし、暇だけど。
マスクかえるのはいつになる。
花粉はピークだぞ。
 
 

時を戻そう 戻れるものなら

 
2011年3月12日のブログ 再掲出
 
荒浜

時事ドットコム津波来ても逃げ場なく=被害甚大の仙台・荒浜地区
 多数の遺体が見つかった仙台市若林区荒浜地区は太平洋に面し、深沼海水浴場は市内唯一の海水浴場としてにぎわいを見せる。海岸近くまで民家が建ち、堤防は低い上、高台などはなく、津波が来ても逃げ場のない場所だ。 仙台市は地形上、西部の山沿い(奥羽山脈側)と東部の仙台平野地域(太平洋側)に分けられる。東部は宮城野区若林区青葉区東部、太白区東部で、中心部も含まれる。市内を主に七北田川、広瀬川名取川の3河川が西から東に流れている。 市東部は、海岸線から低い平野が広がり、中でも市内を南北に走る国道4号から東は住宅地、工業地域のほか水田も多い軟弱な地盤。若林区では、津波や高波などの災害に備え、海岸に海面状況を監視するライブカメラを設置していた。(2011/03/12-00:23)」

 


荒浜へは子どもが小さいときに義兄に海水浴に連れて行ってもらった。
太平洋だから波が高かったのを覚えている。
不細工に並んだテトラポッドに波頭が白く砕けていたのを覚えている。
あれから都市化が進み、民家も随分と増えたのだろう。
幸いにも義兄一家は、ケガもなかったようだ。
ただし、家の中はすさまじく、クルマで一晩過ごしたそうだ。
電気もまだだとか。
 
わが家は食器棚がやられた。妻が大切にしていたウェッジウッドやスポードが
こっぱみじん。
なぜか安い皿やおまけのカップなどが無傷だったりする。
乱雑に積んであった本や紙はもちろん落ちたが、そんなでもなかった。
ネコがパニック障害になって夜から朝まで瞳孔が開いた状態でうろうろ。
挙動不審。
 
郡山市にある実家では偶然、母が再検査入院の日で、実家もダメージを受けたと妹からの連絡。家電(いえでん)で。父は妹宅へ非難。姪のクルマが倒壊した塀でぺしゃんこになったようだ。

ケータイは役に立たず。妻とはPCとのメールでやりとり。
渋谷から5〜6kmの距離なのに、バスと電車で乗り継いで5〜6時間かかった。
ぼくなら歩いて帰ろうを歌って帰るんだけど。

TVとTwitterとネットでさまざまな情報を知る。
こういうとき、Twitterはありがたい。
晩飯の弁当を買いに近所のスーパーマーケットまで行く。
臨時バスから降りて246を黙々と歩く集団と出会う。
日本人の無言の統率力。
 
あれから。母と父とネコがいなくなった。
高校生だった子どもは社会人になって一人暮らしを始めた。

不急不要不安不況

 
隣の区の図書館が閲覧禁止となった。
受付だけ灯りがついて書架や座席は薄暗い。
 
昨日ちらとTVで見た大相撲も無観客で
不気味だった。
実は透明人間の団体一行が見ているとか。
 
東京では某スーパーマーケットの従業員が
新型コロナウィルスに罹った。
 
コンサートや演劇は中止、美術館などは休館。
 
トイレットペーパーが切れそうで在庫なく、
店の人にキレる奥さん。

こうも先行き不透明。気持ちが不安になると
てきめん株価も下がる。
 
『声の物語』クリスティーナ・ダルチャー著 市田泉訳を読んだ。
ディストピアSF」なんだけど、現実の方がしんどいぞ。
次のエントリーでレビューをば。
 
『息吹』テッド・チャンが今週の通勤本。
 

シンコロ姐ちゃん

f:id:soneakira:20200305140013j:plain

 
富永一朗の『チンコロ姐ちゃん』をもじって。
似ていない模写をしてみると、冨永一朗の線のスピード、
達者さを知る。
 
新型コロナウィルスが発症しても、
ジム行って、飲みに行ってウィルスを拡散。
まことに元気な高齢者たち。
ジムのオープン前に並んで運動前に風呂やサウナへ直行。
てなわけで病院とジムは年寄りパラダイスとなっているようで。
あとは美術館もか。
閲覧禁止となった図書館。特に昼寝の場としていた常連の老人にはつらいなあ。
 

古くて新しい怪獣SFもの

 

 『旅に出る時ほほえみを』ナターリヤ・ソコローワ著 草鹿外吉訳を読む。

初出はサンリオSF文庫。何冊か、本棚のこやしになっている。
 
読んでみたら、あーら、よくできた怪獣SFもの。ちっとも古びていない。
瞬く間に読んでしまった。
 
やっと完成した「鉄製怪獣17P」。正しくは「53種類のさなざまな合金」製。
血液に似た「明るい緑色の温かい液体」が「体内を循環していた」。
エネルギー源は「生肉」だった。特技は「地下の奥底を歩くこと」。
創ったのは《人間》。20歳から40歳まで怪獣創造に明け暮れた。
《人間》の仕事をサポートしていたのが《見習工》。
この二人が怪獣を世話していた。
 
「3年間の」試験期間を経てお披露目となる。
《人間》と怪獣は時の人となる。
首相や科学芸術院総裁などが出席したパーティでほめたたえられる。
 
ところが怪獣の計り知れないパワーさらに怪獣が持つ超強力な「爆発物ルルジット」を
軍事利用する動きが出て来る。
 
《人間》に罪をでっちあげ、逮捕、監禁。「怪獣創造主」の名誉を剥奪する。
挙句に副総裁が「怪獣創造主」と名乗りをあげる。
 
これってソ連共産主義国家批判つーか風刺だよね。
国家のため、ほんとは官僚どもが私腹を肥やすために、利益につながると思えば、
略奪したり。不利益につながると思えば口封じしたり。
個人の権利なんてまったくない。

《人間》は「忘却の刑」となる。存在そのものがなくなってしまう刑。
逮捕される前、怪獣の設計図を燃やして一部パーツを持ち出す。
紙でよかった。PCならダメだろ。
国外に追放された《人間》。
持ち出したパーツで怪獣と交信できる。怪獣は話せるし、歌も歌える。
しかし、それも遠方に行くにつれ交信は難しくなる。
 
設定が『ひそねとまそたん』ぽいなと思う。
戦闘機にメタモルフォーゼするドラゴンとドラゴン乗り女子パイロットの
ニメーション。
まそたんというドラゴンの整備担当者小此木くんと《見習工》のイメージがかぶってしゃーない。
 
《人間》は生き延びて国家の体制崩壊を見ただろうか。
そのとき、怪獣は。
 

すっからかん

 

本物の読書家

本物の読書家

  • 作者:乗代 雄介
  • 発売日: 2017/11/24
  • メディア: 単行本
 

 本当にトイレットペーパーやティッシュ、ペーパータオルまで

棚はすっからかんだった。
オイルショック体験組がこの世にバイバイしたら
こんなことはなくなるのだろうか。
葬儀では溜め込んだトイレットペーパーやティッシュを花の代わりに
棺桶に敷き詰めてやろう。
 
『本物の読書家』乗代雄介著を読む。
 
あらすじや感想を書いても作品の評価にはならない系譜の作家。
たとえば保坂和志、たとえば磯崎憲一郎

『本物の読書家』
あらすじは、大叔父を高萩にある老人ホームまで送る若い男性。
そこに居合わせた高級ブランドものでまとめた怪しげな男との珍道中。
常磐線だからロードストーリじゃなくてレイルウエイストーリー。
大叔父は若い頃、川端康成とのつきあいがあった。
そこに驚きの裏話が。マジか。
合間合間に文学に関する話が引用されている。
引用の選び方、こなし方がうまい。
どう言えばぴんとくる。
リミックスだ。ヒップホップ系の人が得意の。
原曲から使いたいとこだけを使ったり、
他の曲とつなげたり。
この作品もいきなりストーリーはフェイドアウトする。
まあ実際、因果関係になるようなことは少なくて
偶然が重なってそう見えるってことなのか。

『未熟な同感者』
亡くなった「親しい叔母」と大学の小人数のゼミ。
「『ボヴァリー夫人』がテキスト」。
「親しい叔母」と大学のゼミをつなぐのが、サリンジャー
夏目漱石カフカ…。
さっきリミックスと書いたが、
ゴダールの映画のようだとも言える。
手持ちカメラで鮮やかにシーンを映し出す。
一方で、セリフや音楽は引用だらけ。
そうか。原稿用紙にカラフルなポストイットが膨大に貼られている。
地味そうな主人公の女性とモデルのような女性。
女性の語りがなんかエロさを感じさせるところもある。
ゼミの准教授は、噂通りほんとうにヘンタイなのだろうか。
なかなかの曲者。