ハン・ガン びいき 2

 

少年が来る (新しい韓国の文学)

少年が来る (新しい韓国の文学)

 

 

ヒノキ花粉、紫外線、黄砂。
別の仕事を抱えていると、まとまった本業の仕事が受けられない。


『少年が来る』ハン・ガン 著 井出俊作訳を読む。


光州事件」をテーマにした作品。

民主化」を求めて軍事政権の打倒をめざして
立ち上がった市民。

大人も子どもも男性も女性もデモに参加した人々は
アカとか反動分子とみなされ、軍、つまり当時の政権から
無差別的に弾圧される。

 

作者が「10歳の時に」知った光州事件

市井の人々を主人公にして
その傷みを静かに書く。

 

作者がもう少し大きかったならば、
デモに参加していただろう。

 

正しいことをしようとまっすぐに立ち向かうと
大きな権力に完膚なきまでにたたきつぶされる。

 

同朋が、だぜ。

 

運よく生き延びた人たち。
肉体の損傷もひどいが、精神の損傷の方が
質が悪い。

 

暴力は相手を蹂躙させる愚劣なショートカット。

 

状況は異なるが、
若松孝二監督『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』を見たとき、
友人から借りた高野悦子二十歳の原点』を読んだときと同じ心持ち。

 

他人事じゃない。

 

うろ覚えだった「光州事件」。


文字で書き綴られたレクイエム。

作者の思いがひしと伝わる。

 

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香港の灰色の脳細胞

 

13・67

13・67

 

 

肌寒いせいか桜が長持ちしている。

 

『13・67』陳浩基著 天野健太郎訳を読む。

 

舞台は香港。香港警察のベテラン“ホームズ”クワン警視
ポアロでもなんでもいいけど。フロスト警部ではない)と
ロー警部など弟子にあたる警察官が犯罪に取り組む短編集。
おおざっぱ。

 

最初の『黒と白のあいだの真実』でトリコになる。
末期がんで病床につきながらも
コンピュータ経由で「Yes」「No」と反応して
犯人をしぼっていくクワン警視。
安楽椅子探偵ならぬ病床探偵。
絡みに絡んだ謎を解明する。犯人は意外な人だった。
最後にもう一つネタ明かしをするが、見事。

 

インファナル・アフェア』や『男たちの挽歌』など
香港ノワールにはまった人なら気に入る。

 

香港は新婚旅行で行ったきりだが、
そのときのかすかな記憶をたどって読む。
スターライトフェリーは乗った。
地下鉄はどうだったか。

 

警察という組織。
出世しか眼中にない者。
悪い奴らをしょっぴきたい者。
地位や身分が向上するならばブラックやグレー企業でも
転職を厭わない者。

 

香港マフィアと芸能界の癒着。
警察内部による事件の隠滅。
職場恋愛のもつれ…。

 

派手なカーアクションや
誘拐シーンもあったりして
エンタメ度もバツグン。

 

中国返還前後の混乱する香港など
当時の空気を取り込んで
リアリティを出している。

 

捜査の合間につまむ飲茶や料理も本当にうまそうで、
空腹時には読まないように。

 

クワン警視はイギリスで研修を受けたエリート。
なのに、出世よりも後身の育成を選ぶ。

 

年代が異なる6つの短編は、それぞれ長篇になりそうな話。

クワン警視はシリーズ化になるほどの
魅力的なキャラ。

 

な、なんと映画化権はウォン・カーウァイが取得したとか。
世界がぴったりだけど、ほんとうに完成するかどうか。
したら、もちろん見に行くけどね。

 

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うしろめたさが足りない

 

うしろめたさの人類学

うしろめたさの人類学

 

 

 

堀田善衛はインドで考えた。
椎名誠もインドで考えた。
開高健ベトナムで考えた。

 

ポール・ニザンはアラビアのアデンで考えた。
ロラン・バルトはモロッコで考えた。
ヘンリー・ソローはウォールデン湖で考えた。

 

若き文化人類学者はエチオピアで考えた。
それが、この本。


『うしろめたさの人類学』松村圭一郎著を読む。

 

エチオピアの田舎町を歩くと、よく「おかしな」人に出くわす」

「日本に生きるぼくらは、どうか。」

 


ぼくが子どもの頃はまだ一日中町中を走っている人がいた。
小学校低学年の時、特殊学級ができた。

いまの日本は要するに隔離もしくは隠蔽されている。
でなければ

「「見なかった/いなかったこと」にしている」

 

それはなぜか。正しいことなのか。
正しくなかったら変えることはできないのか。
それを作者は「構築人類学」と述べている。

再構築なのか、脱構築なのか。

 

エチオピア暮らしから「構築人類学」を考察している。

 

マルセル・モースの『贈与論』を引きながら
「「商品交換」と「贈与」」を比較している。

 

「商品交換」=「経済化」


金がからむ

 

「贈与」=「脱経済化」


金がからまない

「贈与」=「脱経済化」の一例で
「子育て」を挙げている。
曰く「無償の愛情」であると。
イヴァン・イリイチの提唱したシャドウワークと重なる。

 

「よりよい社会/世界があるとしたら、どんな場所なのか」


作者はこう述べている。

「「公平=フェア」な場」


であると。

その一環として男女雇用機会均等法、正規・非正規社員の格差の解消、
LGBTなどのダイバーシティへの取組みなどが始まっている。

 

でも、「公平さの確保」に必要なのが「うしろめたさの倫理」だと。
「国や市場」のせいにせず、個々人レベルで「うしろめたさを起動」させることだと。

 

「ぼくらにできるのは「あたりまえ」の世界を成り立たせている境界線を
ずらし、いまある手段のあらたな組み合わせを試し、隠れたつながりに光をあてること」

 

そうすることで「うしろめたさ」が伝播すると。

 
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ハン・ガン びいき

 

そっと 静かに (新しい韓国の文学)

そっと 静かに (新しい韓国の文学)

 

 

『そっと静かに』ハン・ガン著 古川綾子訳を読む。

音楽をテーマにしたエッセイ集。


小説や詩を書くのは作品を通して知っていたが、
作詞・作曲までするとは。

 

作者が幼い頃から耳にしていた音楽の思い出を書いている。

クラシックから韓国の民謡、流行歌、
アメリカのポップス、ビートルズ

 

ラジオやテレビから突然、なじんでいたメロディーの一節が流れると
ノスタルジィに不意打ちされて困る。

 

父親も高名な作家だそうだが、
作家になった当時は生活も苦しくて
ピアノはおろかピアノ教室へ通うことも口に出せなかった。
紙の鍵盤で演奏した話がしみる。

 

作者が大学時代に聴いていたビートルズの『Let it be』。
子どもと一緒に聴いたときの微笑ましい光景。

 

『Let it be』は、ぼくが中二で洋楽とラジオの深夜放送に
目覚めた頃のヒット曲。


「悲しみや苦しみの中にはありのままに話そうとすると、その人の体を
粉々に打ち砕いてしまうものもある。だからといって胸の中に抑え込んでおくといつまでも引きずるから、方法は一つだ。リズムに合わせて歌うこと。セザリア・エヴォラの歌を聴いていると、そんな気になる。この人は
こうやって人生を乗り越えていくんだな」
(「耳をすます」―BondadeeMaldadeより)

 

繊細でやさしいが、時には声高ではないが、
社会への怒りや抵抗も感じる。


取り上げられている韓国の流行歌やポップスを聴きたくて
YouTubeで探したが、見つからなかった。


公式サイトで自作の詩と小説の朗読や歌まで聴ける。

http://www.han-kang.net/archive/sound

 

ずうっとスクロールして下の方。

 

안녕이라 말했다 해도
「さよなら」と言ったとしても
作詞・作曲・歌 ハン・ガン

 

12월 이야기
12月の物語
作詞・作曲・歌 ハン・ガン

 

思った通りの繊細な歌声。大貫妙子や寺尾沙穂系。
エイミー・ワインハウス系は似合わない。

 

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とんぶりの唄 を視聴


とんぶりの唄 / とんぶり兄妹

 

とんぶりの唄 / とんぶり兄妹
Ryo Fukawa
https://www.youtube.com/watch?v=V2gWPTHmqvk

 


とんぶりの唄-80'S VER- / とんぶり兄妹


とんぶりの唄-80'S VER- / とんぶり兄妹
Ryo Fukawa
https://www.youtube.com/watch?v=b83WxCh3ZCY

 

かわいらしいPV。
本家ロケットマンふかわりょうの作詞・作曲・歌。

結構、何年かおきに食べ物ソングがヒットするが、
この曲はどうだろう。

 

どんぶり姉妹はバッタもん。

 

とんぶり、最近、食べていない。
「陸のキャビア」とか言われる。
正体はホウキ草の実。秋田県特産。
ぷちぷちとした食感が持ち味。

 

ラジオのレギュラーはNHKFMの『きらクラ』。
ここでは白ふかわ。
黒ふかわが出るAMの深夜レギュラーが聴きたいと思う
今日この頃。


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ラジオと進化

 

生物進化を考える (岩波新書)

生物進化を考える (岩波新書)

 

 

AMラジオ放送がNHK外聞けなくなる日が来そうだ。
TBSラジオの『アフター6ジャンクション』。月金で3時間の生番組。
録音でも聞くのはつらいと思ったが、
CMや交通情報、天気予報、通販などなどを抜くと正味90分程度か。
そう思うと不思議と聞けるもの。

 

『魂に息づく科学-ドーキンスの反ポピュリズム宣言-』

リチャード・ドーキンス著 大田直子訳で
紹介されている「分子進化の中立説」の提唱者、木村資生が気になった。
論文はとても理解できないので何か入門書はないかと探したら、あった。

 

で、『生物進化を考える』木村資生著を読む。

まず文章が読みやすい。進化の総論を知ることができる。
知ってるつもりで知らなかったことが多々ある。

 

脊椎動物の骨というものは、まず体表をおおう板として出現し、やがて頭の中へ入り込んだ骨ができ、続いて体の心棒となってこれを支持する脊椎に進化していった。振り返ってみると、骨格なしにはさらに進化した脊椎動物の出現は不可能だったわけで、それはもとをただせば外敵から身を護るための甲冑である」

 

「肩甲骨は翼のなごり」というが、脊椎と脳の進化が人類に繁栄をもたらせた。
ディズニーアニメの『ファンタジア』だと思うが、ネズミのような 人類の先祖が
恐竜に怯えながらもやがて攻略するシーンが頭をよぎった。

 

「最近、ドーキンスは『盲目の時計師』と題する著書で、生物が神の設計によるものだという説明は間違いで、自然淘汰の下での進化によって生物のからだの複雑性や合目的性が立派に理解できることを、手をかえ品をかえ、説得している。ここでいう盲目の時計師とは自然淘汰のことである」

 

短い文章で過不足ない感想。読んだのだが。

 

「中立説では、これら分子レベルで初めて検出される多型的変異は自然淘汰に中立、またはそれに近いもので、突然変異による新生と遺伝的浮動による偶然的消失との釣合いによって集団中に保たれていると考える。中立説によれば、これら遺伝的多型は分子進化の一断面にすぎない」

 

「突然変異による新生と遺伝的浮動による偶然的消失との釣合い」ここに「淘汰論者」がかみついたそうだ。
「相反する方向に働く平衡淘汰により超優性」が残ると。
いいものだけが残る。そんな自然淘汰の考え方は時代遅れだとか。

 

1988年刊行の本だから「分子生物学」もそれこそ進化しているのだろう。
最後のあたりで「優性」、「遺伝子操作」や「地球外知能」にも、ちょっと言及している。こちらも考えさせられる。

 

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チャット、チャット、チャット、チャット

 

リンカーンとさまよえる霊魂たち

リンカーンとさまよえる霊魂たち

 

 

リンカーンとさまよえる霊魂たち』ジョージ・ソーンダーズ著  上岡伸雄訳 を読む。

 

幼い息子を亡くして悲嘆にくれるリンカーン大統領。
夜ごと息子が眠っている墓地を訪ねる。
リンカーンの悔やみや悲しみが磁場となったのだろうか。
往生できない霊魂たちを引き寄せる。

 

霊魂たちのキャラクターの設定がバツグン。
と思うのは表紙のイラストレーションに
引っぱられているせいかも。

 

生き生きと描かれている霊魂たち。
って、やっぱり変かな。
妖気よりも陽気と書いた方がしっくりくる。
生への未練などがたらたら。

 

浮遊霊たちが各々、不幸な身の上話をする様子は
断酒会、AAなどを思わせる。

 

霊魂たちのおしゃべりがシナリオのように書かれている。
違うな。掲示板のカキコミもしくはチャット感覚で書かれている。

 

このスタイルがポップ、新鮮で面白い。
テンポやスピードを与えている。
通常のスタイルでセリフを書いても途中で飽きてしまうだろう。

 

要所要所はちゃんと小説の通常のスタイルを取っている。

落語の幽霊噺にもつながる。

 

百物語なら、怪談を百話終えると霊魂や物の怪が現れるそうだが、
霊魂たちが仮に百話終えたら
何が出るのだろう。

 

降霊会なら…。
きりがない。

 

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